もしも願いが叶うのならば、私は君の光になりたい

「そろそろ帰ったほうが良さそうだね。誰か来ても困るし…流石に同時に出るわけにはいかないから、先に行ってもらっても良い?」

私はもう少しこの温かさに浸って居たいと思ってしまったけれども、その心を振り払うように勢いよく頷く。


天沢は私に気を遣ってくれているんだ。

見つかったら、私が嫌って言ったから。


だから、死んでももっと一緒に居たいとか言えるわけない。

言っちゃいけない。


天沢は穏やかな笑みで柔らかく手を振った。

「またね」

もうすぐ日暮れ。

今日最後の日光が、天沢を包み込む。

それに見惚れながら私も不恰好に手を振りかえした。

だけど、これじゃダメだと手を下ろす。



あと少し。

あと少し、勇気を出せば…言える。

変われる。




落ち着かない心臓を無視して、私は思いっきり息を吸った。

「天沢も、無理しない程度に頑張ってね」

震える声で殴り書きするように言い捨てた言葉は、醜い以外のなんでもない。

でも、今の私にとってはこれが精一杯だ。


それに…きっと天沢なら、わかってくれる。

伝わる。

「じゃあね!」

天沢みたいに笑顔なんて作れやしないので、顔を隠すように旧校舎を走り去った。

心臓がうるさくて仕方がない。

それでも、私は足を止めることはできなかった。




しばらく走り、校舎が見えなくなったのを確かめてほっと息を吐く。

普段体育以外で運動をしないので、息は切れているし、足は重いし、最悪だ。


でも、最高に幸せ。


私は思わず、しっかりと握っていたノートを抱きしめた。




頑張ろう。

親に、先生に、クラスメイトに褒められるためじゃない。


天沢に少しでも恩を返すため。




君を、私自身の手で…笑顔にするために。