「羽虹はすごいね…私、あの人たち相手じゃ上手く声出せないよ」

「…私も。
でもね、一年の頃ひたすら猫被ってたから慣れちゃった。嘘つきなの、私」

羽虹は自らを自嘲するかのように、場に合わない笑みを受けべた。

猫被ってた…?羽虹が?全て…嘘?


目の前が真っ暗になる。


七菜香と…同じで羽虹も…?


…ううん、疑うのはやめにしよう。

私は羽虹と居たい。

その気持ちだけで充分だ。


「でもね、雨音の前ではこう、なんていうんだろ。曝け出せるの、全部。

やっぱり雨音だねぇ」


きっと彼女は、その言葉がどんなに私の心を救ったか、知らないだろう。

人生初の嬉し涙を堪えるのに必死で、何も言えない。


よかった…羽虹は、大丈夫だ。


私の、初めての親友。


そう思っても良いのかな?



「うーでも怖かったぁ、天沢くんの名前出したのは失敗だったかな…。ものすごく王子様に近づくなオーラを感じたよ」

天沢の名前に、一瞬で浮上していた気持ちが止まる。


わかっていたことなのに。

彼が特別すぎる人間だってことくらい。

「すごいよねぇ、なんでもできるんだもん」

「そう、だね」

目の前の羽虹は、王子様を夢見る少女そのものだった。



学校中の誰もが知っている王子様と、私は休日に二人きりでいる。

その重大さに、今更気付いた。

バレたら、天沢も私もどうなる?

私のためにしてくれているのだから、私はまだしも…天沢は被害者でしかない。

誤魔化したって、天沢の印象は少なからず下がるだろう。

だめだ。

私は助けてもらって何も返せてないのに、天沢の顔に泥だけ塗って去るわけにはいかない。


そろそろ、、やめ時なのかも…。