重くなった腰を上げ惜しみながらお墓に背を向ける。
息を呑んだ。
俺を見ている2人も驚きを隠せない様子でいる。特に女性の方は。
「――ま、きた、くんね?」
そう言った女性は隣の背の高い男性に「ほら、咲陽のっ」と腕を軽めに叩きながら思考を巡らせている。瞬時に合致したのか「あぁ」と納得した表情を浮かべて俺に会釈した。
俺も倣って2人に会釈した。
女性は以前見た時より細っそりしているように見えて、男性は初めてお会いしたのに懐かしさを感じてしまった。あの目元、鼻筋、輪郭――所々が咲陽だった。
やっぱり、と腑に落ちた。以前自分が分析した彼女の両親から受け継いだ特徴が思いっきし合致した。
声は母親似。
容姿は父親似だ。
「槙田怜生です。咲陽さんとは仲良くさせていただいてました。この場所教えてくれて有難うございます」
「いえいえ、こちらこそよお礼を言うのは。咲陽のそばに居てくれてありがとう」
そう言った彼女の目元が微かに光って見えた。
俺は俺で紙切れを受け取った時と同じ心境に落ちていた。
今の言葉があの紙切れにも書いてあったからだ。正確には、
“いつも咲陽のそばに居てくれてありがとう。
あなたのおかげで咲陽は幸せでした。
いつでもこの場所に来ていいからね。”
そう書かれていたんだ。達筆寄りの丸字で。
字を見ただけで俺を包むようなやさしい声が聞こえた気がして膝から崩れ落ちたことを俺は忘れていない――。
「いえ、俺は何も。逆に咲陽さんに助けられた方で」
そうだ。死に場所を探していた俺を、暗闇から引き上げてくれたのは咲陽だ。彼女の存在があったから俺は大切なものを改めて見つめることができたんだ。
本当に太陽のような存在。
特に話すこともないからと深く頭下げて去ろうとすると咲陽の母親に「待って」と呼び止められた。
不思議に目配せると、あなたに渡したいものがあるのと紙袋を探る素振りをし始めたのでそれを制した。
「じゃあ、向こうの館内にいるのでそこで。先に咲陽さんに挨拶してください」
彼女はハッとした表情を浮かべて急かしていた手を止めて笑った。旦那さんもありがとうと彼女の背中を摩りながら笑っていた。
また後でと手を振られ何度目かの会釈をした。
坂を下りながらあの紙袋のことを思い浮かべていた。
俺に渡したいものがあの中にあるとは一体どんなものなのか。
そもそもお墓参りするのにあんな手荷物は大きすぎる。
一体なんなのだろう。
そればかり巡らせて館内の休憩所でも、咲陽の両親が来るまで頭の中はそればかりが占めていた。


