「咲陽、1ヶ月ぶり。今日はどんな景色描いてる?」
お墓を綺麗にしながらそう語りかけるのも14年。
あっという間だ。俺だってもう32。
そういや、椎名先輩結婚したらしい。月影情報。
「咲陽知ってた? 椎名先輩結婚したんだって。って知ってるか」
献花しながら思い浮かべたのは咲陽の花嫁姿。
月影から自身の結婚報告を受けた5年前もそうだった。それから夢に見ることもあった。そこからずっと気を抜けば想像している。咲陽の花嫁姿を。
綺麗なんだ。純白の華奢なウエディングドレス。
照れてはにかむ顔すら綺麗で。
ベールを上げて彼女がゆっくり瞼を閉じて、俺が一歩近づいて誓いを交わす寸前でいつも目覚めてしまう。決まって俺は涙が目尻から流れているんだ。
ずっと咲陽を想っている。
恋したことも、愛したこともこの先咲陽だけ。咲陽以外ありえない。
そもそも咲陽以外興味がないし。
俺はもう咲陽しか愛せないのかもしれない。
「咲陽、俺寂しいよ。咲陽がいた頃が好きだった。この世界が好きだった。死にたいとは思わないけど、なんとなく生きてるって感じで。俺、この先もこの世界好きでいられるかな……」
ぽつりと語るけどわがまますぎる思いだと言い終えて思った。
現に俺は人の命を助ける職業に就いてるし。
その途端突風が俺を襲った。ついでに太陽が雲で覆われて。
まるで咲陽が背中を叩いたような。
考えすぎだと思う。それでも咲陽が俺の中からいなくなることはない。
だって、まだ好きだから。
「咲陽いる? 俺さ、まだ咲陽のこと好きなんだわ。未練がましいと思うよな」
自分で言いながら自嘲した。もしそこに君もいるなら呆れた様子で俺を見ているだろうな。
でも仕方ないじゃん。好きなもんは好きなんだ。それはいつかの君が言った台詞でもあるんだけれど、覚えてる?
困ってる正直。
こんなにも長い片想いに一体いつになったら区切りがつくのだろうって。
「ほんと、情けないよな」
ぽつりと呟いてからしれっと手を合わせた。


