泣いてる君に恋した世界で、



――春。



近所には梅の花がチラついている。まっさらな枝には小さな蕾が。きっと次の花が咲く準備をしているのだろう。寒さに耐えながら通勤して思うことが多くなる日々。


そんな今日は休日で、咲陽の月命日だ。


この日は何がなんでも休暇を取るようにしている。緊急時は仕方ないけど、今までこの日は何事も呼ばれることなく過ごせているのはありがたい。


もしかしたら――、なんて思ってしまう。

月に一度必ず彼女に会える日。


俺にとっちゃいつも会ってる感じではいるけれど、お墓参りは彼女が眠っている場所だからより近くに感じられる。


支度をしていつもより身だしなみなんか気にして彼女の元へ向かった。


電車に揺られて30分、バスに乗って10分。海が見える丘の上に大きな霊苑がある。坂を上がって最上段の中列に彼女が眠っている。見晴らしのいい場所にいるなんて咲陽はきっと喜んでるに違いない。

楽しそうに描きそうな風景がそこにあるから。

まるであの屋上から見てるような錯覚を起こしてしまうような。

当然目の前に広がっているのは多くの墓地なのだけれどミニチュア化した住宅が広がっているように見える。きっと俺しかそう思わないだろう。

その先には海が木々から少し顔を出している。とても綺麗だ。


咲陽が亡くなってひと月後ぐらいに便箋を貰って、中に一枚あった。そこには丸文字で住所と番号が書かれていた。それが今いるここの現在地だ。

差出人は咲陽の母親から。咲陽のクラスの担任――国語科のニシミヤ先生がそう言って渡してきた。

彼女の母親とは3回ぐらいしか会話したことがないのに丁寧な言葉を添えてあったのが印象的だ。