泣いてる君に恋した世界で、



既読がつくことも返信が来ることもなかった。それはいつものことだから全然気にしていない。ただ、年を越してからもそれが続くとは思わなかった。

おはようもおやすみも全部俺だけ。

ずっと既読がついていないトーク欄。

不安は募っていく一方で。

だから神様に祈る日が増えてった。
暇さえあれば家だうろと学校であろうと、バイト中であろうと、不安と恐怖が募れば祈った。

死んだように眠ることが増えるたびに神頼みってこんなにも体力使うことを知った。

それなのに時期(じかん)というものは相変わらず止まることを知らないで、もう3月になっていた。

近所の木々には梅の花が咲いている。
赤々と。これを咲陽が見たら何の色と応えるのだろう。


――咲陽の彩る世界が見たい。



そう懇願しながら昨年の暮れに校内の通路の壁に展示されてた胸の奥から湧き上がるほどの彼女の世界――高いところから一望したこの街と眩しいくらいの夕焼けが照らされている一枚の絵画を思い出した。

それは全国の人が参加する絵画コンクールに出典したものだ。

いつ出したのかも俺は知らない。3月頭の全校朝会で初めて聞いのだから。知ってたのは多分先生くらいだろう。

その画は職員室に繋がる渡り廊下の壁に貼り出されますと美術の先生が言って俺はその日直ぐに見に行った。

絵画の下にプレートがあって、学年と名前、それから絵画のタイトルが記載されていた。

A3用紙に描かれた絵は写真を引き伸ばしたかのようだった。

どう描いたらこんな幻想的で現実味溢れた色を出せるのだろうと咲陽の実力に感銘を受けるばかりでぽつりぽつり飛び出る言葉は「すげぇ」だった気がする。

それしか溢れ出てこなかった。ほんとに凄いから。

それなのに最優秀賞でもなく、優秀賞でもなく入賞なのは納得いかない結果だ。

こんなに凄いのに。

でもこれは素人の俺だから思うことであって。プロの目が決めた結果なのだとその画を目の前にして言い聞かせたっけ。

それでも、咲陽の夢は届かなかったという事実が悔しかった。


その日、咲陽の絵画を添えたLINEを送った。


[入賞おめでとう!やっぱ咲陽すげーよ]


既読も返信ももう来ないと分かっていたのに閉じたスマホに通知音が響いた。

見れば咲陽からで。

トーク画面は全てに既読の文字が連なっていて、今届いたばかりのメッセージが滲んで見えた。

反応が返ってきたことより咲陽が生きていることにひどく安堵したんだ。

手の甲で荒く拭って読み返す。


【えへへ、ありがとう!
 悔しいけど、入賞できただけでもよかった!】

咲陽が悔しそうにだけど嬉しそうに笑ってる姿が目に浮かぶ。


[咲陽なら絶対最優秀賞取れる。次こそ取れるよ]

興奮極まりない状態でそんなことを送ったことに後悔なんてものはなかった。本心だったから。彼女だってそれを目標にしていたから。

だからスタンプのみの返信にでさえ希望があると信じた。