正直、俺も今更どうかしていると思っている。
こんな台詞一体どこから湧き出てきているのやら。絶対少女漫画にでも出てきてそうな台詞だ。
それなのに口からは彼女に対して溢れる恋しい言葉ばかり口を吐いてくるんだ。
彼女の手をとってやんわり握る。
「咲陽のことあれからずっと、ずっと想ってた。なにしたってどこに居たって俺は咲陽のこと想ってた。俺気付いたんだ。咲陽と出会って大切なものがまだこんなにもたくさんあったんだって。俺は……ずっと死にたかった。なんで俺じゃないんだって。俺は俺が嫌いだったから――」
嫌いというより、憎かった。
素直になれなくて。優柔不断で。気に食わないと苛立って。
探れば探るほど欠点しか見えてこなくて。
学業はできてもそれだけ。本質は中身の無い人間。
親友を亡くして、両親も亡くして、生き甲斐をなくした。
それらを全て奪ったのは紛れもなく自分で。
神様が実体として実在していたなら躊躇うことなく殴りにかかっていただろう。
咲陽に出逢うまでは。
咲陽のそばで封印していたはずの感情が溢れ出て、今まで見てこようとしていなかった日常が一気に輝いて見えた。俺は一人じゃないって思えるようになった。
俺にはまだ大切なものがこの世界に散らばっている。そしてみつけた――。
「さよ」
君と出会えたから。咲陽がいるから俺は。
こんなこと言ってはいけない。
そうは想っていても溢れてしまいそうになる。溢れてしまう。
「まきた、くん……なんで泣いて……」
ああ、だめだ。
ぜんぶ、咲陽のせいだ。そうじゃない。
だけど、咲陽が――っ。
「いなくならないよな……?」
居なくならないで。
俺のそばにいて。咲陽の隣にいたい。
俺からもう大切な人を奪わないでくれよ――。
彼女の手首を握っている己の手に力が籠る。
情けなく泣く。押し殺すように。これ以上口を開かないように。そうでもしないと要らないことまで言ってしまうから。
ふと頭に感触が残った。
いつの間に抜け出した彼女の手が優しく乗っていた。だから余計に泣けてきた。
反対にそばでおかしく笑う彼女。なに笑ってるんだよと言いたくなるけれど言えなかった。
「槙田くん子どもみたい。なに急に。ほんと今日の槙田くんは変だね」
そう言いつつ撫でたり髪を弄んだり、それから今度は俺が彼女に手を握られる番になった。
「槙田くん私そう簡単にいなくならないよ。大丈夫だよ?私こんなに元気だし、髪だって伸びた。先生からはねもう少しで家に帰れるって言ってくれたんだよ。だから大丈夫。もう少しで完治するから。だから泣くことなんてないよ」
彼女は何度もダイジョウブを繰り返す。まるで催眠術のように。
あまりにも芯のある言い方に思わず本当にダイジョウブなんだと思ってしまいそうになる。
ただ俺はあの日を憶えている。しっかりと。ドア越しから聞いていたのだから。咲陽は絶対に知らないあの日を。
「槙田くん。ちゃんと完治して退院したらさ、私のお願い聞いてもらってもいい?」
顔を上げると優しく笑う瞳がやんわり捉えられた。そこに映る俺はあまりにも情けない顔でいた。
「うん。いくらでも聞くよ」
それに続くであろう言葉を待っていたけれど彼女は微笑んで「今は言わないよ」とはぐらかした。
この日が咲陽と最後の対面だった――。


