「望月。そろそろ俺と口聞いてくれてもいいんじゃね」
あれから長針が一周回ってる。
次々とめくってその世界を旅していた俺も俺だけれど、未だにこっちを見ようともしない彼女にいい加減痺れを切らしてそう口を吐いてた。
「帰らせるためにずっとこうしてんの?」
「…………」
「酷いな」
ほんと酷い。それしか感じない。
それなのに彼女に対して甘い感情しか湧いてこない。すぐそばにいるから本当は開けた瞬間にも姿を見た瞬間にも抱き締めたいとばかり思っていた。
嫌がっていても無理矢理にでも腕の中に彼女を包めば俺のこと見てくれるんじゃないかって。声を聞かせてくれるんじゃないかって。俺はそのくらい彼女を感じたいんだ。
「咲陽」
スケッチブックを静かに閉じて机に置く。
そんでしゃがんだ。
咲陽が見てくれないならと。
一瞬だけ目が合った。相変わらずビー玉みたいな瞳だ。
それはすぐにそっぽへ行かれてしまった。なんなら顔ごとだ。
咲陽、とまた呼ぶ。こっち向いてれるまで。嫌われてもいいくらいにはしつこく。この分厚い壁のようなものは一体どうしたら消えてくれる。
「――呼ばないで」
囁く透き通った声はまるで世界を静まらせるようだった。ごく僅かな声量。そして苦しげに。投げ捨てる言い方。
「呼ばないで。もう帰って」
そう言ってくる彼女の言うことをすんなり聞くことなんてできない。
じゃあなんでそんな風に泣くんだよ。静かに泣くなよ。苦しむなよ――。
「な、んで」
「強がんな。ずっと会いたかった。咲陽に会いに来た」
腕の中にすっぽりと収まる彼女を離すまいと強く且つ、慎重に抱きしめる。自分の手の甲に熱をもった水滴を感じた。嗚咽までこぼれ落ちている。肩が不規則に揺れている。
嗚咽を挟みながら喋ろうとする彼女が可愛くてしょうがない。
“ずるい”
“ばか”
“私だって会いたかった”
その3つは聞き取れた。
こんなに近くにいるのに抱き締めるだけでいいのかなんて思ってしまう。
もっと何か涙を、悲しみを消してくれるようなそんな何かができたらいいのに。
だけどいくら考えを巡らせてもなにも思いつかない。
どうしたら泣き止む?
咲陽が好きだからこそ強く願ってしまう。
――笑ってくれ、と。


