泣いてる君に恋した世界で、



熱くこぼれ落ちるカケラを乱暴に拭った。

なんだよ。かわいいかよ。漢字間違ってっし。

切なさと嬉しさと愛しさが入り混じって感情がバグる。

毎回勝手に読ませてもらっているけれどサンタ宛の手紙で泣いたのは初めてだった。

こんなの無理だって。泣かずにはいられないって。

笑って過ごせるおまじないって。どんなおまじないだよ……っ。

クリスマスいつも笑ってるじゃん。

……いや、羽星から見たら俺たち笑ってないように見えてたのかもしれない。子どもはなにかと一番敏感だから。それに、クリスマスは母ちゃんの命日でもあるから。

そっか。もう一年になるのか。早いな。


そう思いふけながらもう一度手紙に目を通す。

もうプレゼントはいらない、か。

そんなん言われてもな。もう拒否権なんてないんだよな。すでに用意してあるから。今年のクリスマスはちょっと奮発してみようと思って。室内で楽しめる羽星が行きたがっていた子ねこのキャラクターとその仲間たちのいるお城へ行くチケットを予約したんだ。

さすがにこれを要らないって言われたらお終いだけど。最悪来場予約のみのチケットだから取り消しはいつでもできるし……そう言われないことを祈ろう俺は。

じいちゃんとばあちゃんには美味しい夕飯を作って待ってると言われたし、なんなら「私たちは気にしないで羽星ちゃんと楽しんできなさい」とやんわり言ってくれたのをありがたく受け入れることにした。

多分羽星はあんま納得してくれえないとは思うんだけど。


次に視線が落ちたのは “おにいみたいに強くなるんだ” の部分。

嬉しい通り越して顔が蕩ける。

近くにいたら抱きしめてるくらいだ。

今はさすがにできないな。羽星はばあちゃんと一緒に寝てるし。残念。


うららには俺のことそう映っているんだな。なんか照れる。直接言ってくれてもいいんだよ?サンタとヒミツ共有し合わなくて。――ってなんでサンタなんかに嫉妬してるんだよ。サンタは俺じゃん。

俺、強くなんかないよ。死のうとした人間なんだよ。羽星置いて死のうとしてた最低な奴なんだ。だから、全然強くなんかない。強いのは羽星だ。今の今までずっと我慢してた。いつも悩むのは彼女なりに大人になろうとしていたのかもしれない。

それはいいこと。だけどなうらら。自分を押し殺してまで隠さなくていいんだよ。俺の大切な人が教えてくれたんだ。


『楽しいから笑うんだよ。悲しいから泣くんだよ』


それは簡単なことだけれど難しいことでもある。

笑いたい時に笑えないし、泣きたい時に泣けないこともあるから。

でもその人と出会って気付いたことがあるんだ。

感情を引き出すのはいつだって大切な()()()を想うから。

俺は、望月に会いたい。


もちろん親父と母さんに会って謝りたい。それと和希にも。

でも今会いたいと思うのは望月しかいない。会いたい。話したい。声が聞きたい。笑った顔が見たい。怒った顔も。困った顔も、美味しそうに卵焼き食べる彼女をもっと近くで見たい。


手紙を封に戻してあった場所に戻してごろんとベッドに身を預けた。


「――さよ」

不意に放った掠れた声が暗闇に溶け込んだかと思いきや脳内はそれでいっぱいになった。

もう一度彼女の下の名前を呼んでみる。返事もなにも返ってこないけれど、暗闇の中ぼんやり浮かんで見えたのは恥ずかしげに笑う望月の顔。

なにやってんだよと夢現から醒めた俺が彼女より顔を隠して恥ずかしがるのはなんか違う気がするけれど、頭にも耳にも残る響きがくすぐったくて、鼓動も心なしか速いしやってしまった感がすごい。

それなのに頭と心、口は同期していなくて。


「――咲陽に会いたい」



そう呟いたのを最後に決心した。


明日、望月を訪ねる。
頑固に断られても今度は引き下がらない。下がってやんない。望月に関しては我慢しない、と。