泣いてる君に恋した世界で、



11月末。あと1ヶ月も経てば年が明ける。その前にクリスマスか。

……クリプレ何が欲しいのだろう。そろそろ手紙書いてもらわなきゃな。

きっと羽星(うらら)は――。


「羽星、もうすぐクリスマスだからサンタさんに手紙書いとかないとな」

そう言って俺は引き出しから便箋とペン諸共取り出して居間のソファーに腰掛けた。

バタバタと駆けてきた彼女はいつもと同じ位置――俺の足の間にちょこんと座る。

また身長が伸びたのだろうか少し坐高が高くなった?髪も伸びたなぁ。さらりとした細い髪を一房掬うと仰反るように見上げたくりっとした瞳と合った。


「なにおねがいすればいいかなぁ」

このセリフはいつからかのお決まり台詞だ。彼女の瞳は本当に困っているようで「何でもいいんだよ」と言えば渋々頷いて便箋と困ったように向かい合う。

テーブルに両肘をついて悩む姿に「欲しいおもちゃとかさ。アクセサリーとか読みたい本とか、なんだっていいんだよ」と掛けてみるけどいまいちピンとこないみたいで。

この光景は毎年見ているけれど、この時空(とき)だけタイムループしているんじゃないかってくらい同じ会話をしている気がする。


「うらら、別に難しく書かなくていいんだよ。サンタはうららの願いを叶えるためにこの手紙待ってるんだから」

「じゃあ、――」


息を呑んだ。

一気に現実に戻されたような感覚に目眩を起こしそうになった。

くるりと振り向いた彼女は至って真面目で無垢なままの視線を向けてくる。おれは耐えきれなくて視線を外した。なさけな。


「だめなの?」

「…………」

「サンタさんわたしのおねがい聞いてくれるんでしょう?まってるってお兄言った」

「……うん」


頷いた俺がバカだった。

羽星は涙目になった。


「――じゃあ、ママとパパにあいたい!会ってわたしのお料理食べさせたい!ぎゅってしたい!お兄もそう思うでしょう?わたしが、サンタさんにたのんであげるから。ね?いっしょに会おうよママとパパに」

ほろっとこぼれ落ちたそれを見た瞬間抱きしめた。

腕の中で会いたいよぉと泣く小さな背中を強く回して、優しく撫でる。

ああ、こんなにも我慢させていたのかと大粒の涙と声量に俺の視界も歪んだ。

「授業さんかんとか、っ運動会とか友だちのおかあさんがきたりしてて、いいなっ、て……っ」

優しく頭を撫でる――そうだよなぁ。羨ましいよな、と。


「で も、っ、おばあちゃんと おじいちゃんが来てくれてうれしいし、っ、運動会も、ぉ、お兄来てくれてるし、っおにいのお友だちも来てくれたし……、うれしいけど、ね……っぅ〜」


つい先々週のことを思い出しながらそうだねと撫でる。

月影に話しの流れで妹の運動会が土曜にあるんだよねと言うと張り切って当日に来てくれた。月影の先輩――椎名先輩、望月の親友を連れてきたのは予想外だったけど。

口の足しになるかと少しお弁当を作ってきてくれたのも予想外。月影曰く、妹ちゃんに文化祭を手伝ってくれた恩返しとのことをその日の夜にLINEで教えてくれた。

それでも羽星が楽しそうに、美味しそうに、なんといっても幸せに笑っていたのが俺たちは嬉しかった。カメラロールを開けば笑っている羽星がたくさん埋まっている。

一枚を除いては。