泣いてる君に恋した世界で、



それからは特に何も話さなかった。

ズコーっと僅かな量を吸い込んだ月影を合図に「出るか」というと頷いて俺を先頭に店を出た。


結局、何しにここへ連れてきたのか。

ただ望月のこと聞きたかっただけなのかと思ってしまった。一体なんのために……。

少し先を行く月影の背中をぼうっと見た。ふいっと振り返る彼女は「なに?」とでも問い掛けているような仕草をする。


「――望月の話しするために連れてきたん?」

静かに頷いた。割と賑やかな歩道がその一瞬だけ静かになった気がした。

なんで、と言いかけそれを遮った月影によって俺の声は吐息と消えた。

「だってあからさまにいつもの槙田くんじゃないんだもん。文化祭からずっと上の空って感じだし。スマホ見る回数多いし。眉間ずっと寄ってるし。槙田くんずっと寂しそうなんだもん」

見ててこっちが辛いよ、と唇を甘噛みしながら弱々しく笑む。


「だから強行突破、的な?本当こうでもしないと話してくれないと思ったから」

図々しいとは思うけど、私そんな槙田くん見てられなかったんだよ。照れたのか前髪を少し弄って俯いた。

まじかと心の中で項垂れた。
俺そんなに分かりやすく……。情けな。


俺は呆れながらも笑みを浮かべた。そんな俺を月影はポカンと見ている。そして我に返ったのか頭を押さえて俺と距離を取った。

ハテナを浮かべる。え、おれなんかした? ああ、あたまか……。

「ちょ、ちょ、……は、え?……なッ――!?」

あまりにもパニクる様子にプッと噴き出してしまった。

“ありがとう” と口で言えばいいものを手が頭を押さえつけた。たぶん照れくさかったからだと思う。月影がそこまで俺を心配してくれていたことを痛感して。でもそれになんの意味はない。あるとすればそれは違う感情。



「ありがとな」


月影は見開いて俯いた。

「ずるいな」と呟いた吐息は当然届くことなく彼は青信号に切り替わった横断歩道を歩く。

少し遅れた月影はさっきとは打って変わってぱあっと花が咲いたかのように俺を抜かして振り向いた。


「じゃ、これからも遠慮なく!槙田くんの友達として色々と付き合ってもらおうっと!」

くしゃっと笑った月影に不覚にも心を許した。



 ―――男女の友情が永遠に成立するしない説は当時の俺にはよく分からなかった。まあ、無い方に傾いていたかもしれない。月影と共にするまでは。

 だけど現在(いま)ならこの説は確証出来る自信がある。歳を重ねても定期的に連絡する間柄で。月影静花は数少ない友人で心許せる人間であることを。

 彼女には感謝しても仕切れないほど恩がある。
 これから起きる闇を影で支えてくれたのだから。