「うんまぁ」
幸せの声をあげるその人に「よかったな」と俺はアイスカフェラテを口に運んだ。
「槙田くんせっかくなんだから他にも何か頼めばよかったのに」
「いや、いい。これで足りてるから」
「あ、もしかして怒ってる?」
だよね〜と分かりきったように頷いてスプーンを半分食べたSpecial⭐︎ティラミスパッフェの中に置いた。
怒ってはいない。
カップル限定品がないと言われて、そんな企画やってることもないです申し訳ございません、と本当に申し訳ない表情をした店員に言われたとて。
つもりだけど顔に書いてあったのだろうか。それにしてもまじで本当に怒ってない。
「こうでもしないと話してくれそうにないと思ったからさ」
一体何を話すことがあるのだろう。月影が再びパフェを口の中へ運ぶ。そしてまた同じ表情をした。俺もまた一口口に運ぶ。
「望月さん」
一気に咽せた。
なぜに突然彼女の名前を。不審がった視線は目の前にも通じたようで「ごめん急に」と苦虫を噛んでいた。
「私は友達として話したいだけ。もう槙田くんのことキッパリと諦めてるし。諦めてるからね!?」
再確認させてるのか、はたまた言い聞かせているのか。ただ言葉に圧がかかっていたのは間違いない。
「望月にはあの日振られてる」
単刀直入にそう告げた。誤魔化したところで何にもならないし。きっと嘘なんて吐こうにもつけないだろう。そう尋ねるってことは月影はなんとなく勘づいていると思うから。
それなのに月影は口元を押さえていた。信じられないと言わんばかりの瞳を大きく開いて。そう反応向けられると痒くなる。痛痒い。
引き留めた月影を離してまで俺は必死になって走っていたのだから。あんな勢いで行ってれば何かあるなんてこと想い人がいるなら想像はつくはずだ。
結局俺は手ぶらなまま。
「信じられない」
何度目だろう。月影にはこの言葉しか持ち合わせていないようで気づけばこの信じられないを口ずさんでいる。
俺もだよ、そう言いたい。あの日寝付けない頭はそればかり占めていた。
振られると思いながらどこか成功する夢を見ていた。夢すぎたんだ。俺のいいように描いてしまった独りよがりのビジョンに過ぎなかった。
「――え、連絡は?」
信じられない思考の中ぽつりぽつりと浮かぶ問いかけを投げてくる。
その度に平然を装う。
連絡は以前よりもかなり減ったし、なんなら俺が一方的にしてるだけ。既読も1通送れば翌日になるまでつかないことの方が多い。本当に以前のようにはいかなくなってしまった。
だから会いに行くんだ。LINEより会った方が望月のこと知れる気がするから。
会わずに返されるとは思わなかったけどな。さすがに堪える。
「槙田くん本当に好きなんだね、望月さんのこと」
既に溶けてしまったパフェ――ほぼドリンク化したグラスの中を飲み干した彼女が俺を見てそう言った。
どことなく「羨ましい」そんな声が聞こえてきそうな表情を向けてくるから視線を逸らす。
我に返ったのか気を取り直した月影はなんともいえない笑みを浮かべた。


