「槙田くーん!」

まるで遠くにいるような声音で呼ぶのはいつだって月影。

振り向きながら「なに」と一応聞いてあげる。


「あ、今めんどくさそうにしたでしょ!ま、いいけど。今日バイトある?」

「ないけど」

「ちょっと私に付き合ってくんない?」

「え、なんで」

「うわーその反応かなりひどいんですけど。今の誘いが望月さんだったら即答なんでしょ〜」

名前を耳にして言葉を詰まらせる。その様子を見た月影はやれやれと笑った。

文化祭をキッカケになぜか月影には何かと絡まれるようになった。今みたいに。いや以前からだけど。よりしつこさが増したように感じている。……気のせいか?

「で。どこ行くの」

「えっ、ほんとに付き合ってくれるの!?」

「月影が言ったんでしょ」

聞き間違いなら無かったことに――そう言えば勢いよく「私言いましたいいましたっ」と俺を引き留めた。

もう一度聞くと駅前にできたばかりのカフェに付き合って欲しいとのことだった。理由は限定品――カップル限定のパフェがそれはそれは大変バズっているとかなんとかで食べたいからだそうだ。

「お願いします!男友達槙田くんしかいないからさ〜」

そう言ってさらに手を擦りながら頼まれる。

バイト無いけど無い日は極力望月の元へ足を運ぶようにしている。あれから一向に顔を合わせてないけど。行っても「体調良くないから」と返されてしまう。

遠回しに「会いたくない」と言われてる気がしなくもないが、きっと会いたくないんだろう。

俺が告らなかったら今でも普通に会えていたのだろうか。

考えないようにしてるけどふと気が抜けると頭ん中は彼女のことで埋め尽くされてる。今日の気分はとか、しんどくないかとか、声聞きたいとか、会いたいとか……その内彼女の心配より自分がどれだけ彼女のこと必要としているかを思い起こさせていることに気づくんだ。それの繰り返し。

槙田くん、と呼びかけられていることに気づいて、ほらなと心に落とした。

なんとなくはぐらかして月影の隣に並んだ。