後夜祭中も考えるのは槙田くんのことばかり。
きっと今頃2人は……。
そんなもしもの答えが出ているのに私の目からは一滴も出てこない。素晴らしい涙腺だなとひっそり感心する。
室内の催し物が終わると強制的に外に追い出される。
されるがままに移動。周りはどこで見るか、もう帰るかとかそんな会話がちらほらと入ってくる。
友達も連なってそんな会話をし始める。
そんな楽しい空間が苦しくて、なんだか今この瞬間は1人になりたいと思ってしまった。
そんな時、スマホが鳴った。
椎名先輩からだ。
【一緒に花火見ない?】と。
辺りを見渡すとスマホを掲げて手を振る先輩がいた。
友達にひとこと告げて先輩の元へ駆け寄る。
「ごめんごめん邪魔しちゃった?」
「全然です。むしろラッキーといいますか」
そう。これは本当にラッキーだった。1人にはなれてないけど。周りと私の温度差があまりにもかけ離れてるから。
「ちょっくら違う空気吸いますか!」
そう言って椎名先輩が校舎内へ足を運ぶから私も後を付いて行った。
たどり着いたのは美術室。
木材や接着剤のような独特の酸っぱい匂いが鼻につく。
ギィと鳴る方を見れば椎名先輩が木の椅子に座ったところだった。私はその近くの普通の椅子に腰掛ける。
「なんかさ〜ものすごく疲れちゃった」
「はい、私もです」
そう同感すると椎名先輩は笑った。
その笑顔がいつもと違うように見えたのは気のせいかな。
なんだか、心做しか寂しそう。
「先輩、どうかしたんですか?」
正直聞くつもりなんてなかった。
それなのにさっきまでの私とは打って変わって何か発していないと落ち着かないみたいだ。あんなに1人になりたくて誰とも話す気にもなれなかったのに。
そんな心中の私に先輩は「私より月影でしょ」と優しく笑った。
「正直に言うけど、さっきの見ちゃったんだよ」
ごめんね と続けた先輩は頭を下げた。
咄嗟に顔を上げてくださいと肩に触れる。
「先輩が目撃した通り、完全に失恋です。むしろ嫌われたかもしれない」
嫌われたかも、じゃないな。嫌われた。
あんなしつこく引き止めちゃったし。完全に引かれてたし、迷惑がられてた。
思い返してもあれは酷すぎたよね。私が男でも引いてるもん。
「あーあー。最悪ですよもう」
こんな失恋考えてもみなかった。予定になかった。思い描いてた告白とも違うし。ほんと――。
「なにやってんだろ……」
ふと甘く爽やかな香りに身を包まれた。
「こうしてあげるから。ついでに頭も撫でてあげる」
笑いを誘わせた私はくしゃっと目を瞑った。そして気がつく。自分が泣いていたことに。
後頭部をやさしく撫でるその温もりが心の奥底までも撫でられているようで、頑固な水晶体がこれほどまでかと溶けていった。
涙はもちろん苦しげな嗚咽もセットで。
私こんなに苦しんでたんだっけ。思った以上に苦しい。あわよくばなんて思っていた。槙田くんと話すたびに。LINEするたびに。帰るたんびに。私のこと意識してくれたら。好きになってくれたら。告白してくれたらって。
でもやっぱ無理があった。
彼の心の中には太陽がいるから。月よりも眩しくて圧倒的な存在が彼のそばにいるから。
もし太陽が存在していなかったら私が槙田くんの太陽になれたかな。
いや、きっと太陽の代わりなんて私には務まらない。だって私にとっての太陽は槙田くん、君なんだから。
君の太陽にはなれないし、君の太陽に敵わないけど、私はどんな時も君を支えたい。
わたし、君の恋、応援してるよ――。


