「――お待たせしました。お時間とらせてしまってすみません。読ませてくれて有難うございます」
「やだ、時間なんていいのよ。そんな畏まらないで?それに私が言い出しっぺだから、こちらこそ槙田くんの時間奪っちゃってごめんね」
「いえ。そんなことないです。とても貴重で有り難かったです。咲陽の気持ち知れたので」
そうだ。ずっと靄がかかってた心の中が晴れてる。
この日記が全ての答え合わせだった。全てが腑に落ちた。いまものすごく身体が軽い。
ふたりは揃って同じ安堵した笑みでよかったと頷いてる。それに俺もほっとした。
墓前で会った時より2人の表情が澄んでいたから。おそらく俺もそうだろう。
旦那さんがこの穏やかな場にそろそろと声をかけると3人揃って腰を上げるのを合図にお別れを告げる。
別れ際奥さんはいつまでもペコペコしていた。
隣で呆れたように、可笑しそうに宥める旦那さん。
それに笑みが溢れた。
最後の最後に「本当にありがとうございました」と頭を下げるとおふたりから「またね」と返事が返ってきたのを受け取り帰路と向き合う。
その “またね” に少し胸がじんわりした。
家に着いた頃は夕陽が部屋の中を、カーテンをすり抜けて照らされていた。
スポットライトみたく一番照りつけてるダイニングテーブルに受け取ったオレンジ色のスケブと入賞した画と日記を置く。
日記は結局受け取った。読んで欲しいと言われ読ませてもらった身なのだからちゃんと返すのが当然だと思っていた。
それが館内を出ると静かに手渡された。驚きを通り越して恐縮した。
一度否めたがああ言われたら拒めなかった。
『これはもう槙田くんへのラブレターみたいなもんだから。あなたが持つべきよ』
未だに本当に貰ってしまっていいのだろうかと思ってる。奥さんなんか「気にしないで受け取っちゃって。槙田くんは大丈夫。怒られるのは私だけだから」とおおらかに笑っていた。
笑ってもいいのだろうか……。俺は受け取っちゃいけなかったようにも感じるんだけど、あの凄みといったら断れなかったから仕方ないよな。
そう言い聞かせつつ、紙袋を畳もうとしてふと視界に割り込んだ1枚の便箋。
そっと触れて、取って、宛名をなぞって、また震え出した指先で開封した。
きっとこれを読み終えた頃には、笑えている。君の描いた世界で、これからもずっと――。


