闘病生活終盤のページは以前までの彼女の字体が変わっていた。
ノートの行に収まりきれないほどのアンバランスな字。ガタガタだけれど読める。力強い筆圧から感じ取れる咲陽の気持ち。
次をめくると12月で
俺が無理やり彼女の元へ行った日のことが綴ってあった。
いくつものシミがあった。
この “生きるよ” にどれ程の感情が込められているのだろうか。これらを合わせて感じ取ると居た堪れなくなる。慌てて滲み出す視界を振り払った。
それなのに追い討ちをかけたのはページ数で。
あと2回めくるとその次がないことにこの日記にも寿命があるのだと思い知ってしまった。
あまりにも切なくて捲ることを躊躇う。
ふわりとやわらかな風が俺の代わりにノートを撫でた。まるで読めと急かすように。次が捲られたそれに視線を落とした。
彼女の真実が説き明かされていて俺はそれに対して涙を流すしかなかった。泣きたくないのにな。やっぱ人前だし。咲陽の両親だし。泣きすぎだし。
ごめんねと書いてあることに全て俺は全力で許すよ。許さないわけない。だって咲陽だから。俺の愛しい人。大好きなひと。大切なひとなのだから。
そしてもう一つ。
このページの最後らへんの行に書かれてあるそのうしろに消したであろう跡が残っていた。
あまりにもしっかり消されていない筆跡は最も簡単によみがえさせれた。
だから奥さんはあんなに必死になっていたんだ。咲陽の意志を果たすべく。このチャンスを逃さないように。
いつ俺と会うか分からないからと何処行くにも手放していなかったと旦那さんが言っていたのを思い出す。
そういうことかと点と点が繋がって申し訳なく思ってしまうけれどそれすらも奥さんには通じないだろう。だってすごく肩の荷が降りたようだったから。俺を見つけて言った時のあの笑みが。
完全に全てに目を通してしまった日記に呆然として一つ息を吐く。


