ふと左手首に目を遣る。
思いのほか時間が経っていないことに安心した。
とはいえ、拡げてから45分が経っしまっている。
これは時間が足りないかもしれない。しかもご両親が目の前にいることがなにより申し訳ない。
この待たしてしまっている時間を気にしつつ、咲陽への気持ちから溢れる手と眼は止まることを知らないでいる。
二人も俺と一緒に咲陽の想い出を大切に見返しているからあまり気にしないでおこう。
まだ正午過ぎたばかりだ。
次をめくった。
色が鮮やかになった気がした。
読めば読むほどに。色鮮やかに。
不安が確信に変わっていく。確信が歓喜に切り替わって、それは切なさも引き連れてきて。
再び視界が揺らんでいく。
顔面がグシャグシャになっている俺に気付く二人はやんわり微笑んで、咲陽母はそっとちり紙を渡してくれる。
溢れすぎて何も見えない。ちり紙は思いのほか硬くて拭った後は痛かった。
なんだよ。俺よりもずっと咲陽の方が俺のこと――っ。
なんで隠してんだよ。なんであの告白受けなかったんだよ。俺のことこんなに好きじゃん。
日に日に増していく俺への想いがココにあるじゃんか。
嘘つき。咲陽の嘘つき。
いくらなんでも酷すぎるぞ。死んだ後にこんなこと明かされても。
今開いているページに文字が滲んだ形跡がある。そっと撫でた。
一体どんな想いで書いていたのかを想像するだけて胸がいっぱいになる。くるしい。
自分の病状や寿命はきっと自分でしかわからないのだと思う。あと何年生きられるのか。完治するのか。テレビのドキュメンタリーや実際の患者さんでも稀に耳にする。俺は聞くたびにどうしようもない感覚に襲われる。医者だからって完全に救える保証はゼロに近いものだから。何処かのスーパードクターでさえ救えない命はある。
嘘を貫こうと決意したのきっと後夜祭だろう。俺だったら貫き通せるだろうか。多分無理だ。表情にすぐ出てしまう俺だから。
咲陽すごいな。どこまでも強いんだな。俺に無いものたくさん持ってるキミに何度心を奪われたことか。
……キミの全てが本当に愛おしいよ。
この先もずっと咲陽だけを――。


