たくさんの大きな悲鳴と金属音、ゴムの焦げるにおいがしてあたりが騒然とする。ああ、交通事故だと冷静にしている自分が上から見下ろしているようだった。

 慌てて人ごみをかき分けて前に出る。彼女に似た人影を探す。

 いない、いない、いない。杞憂ならそれでいい、似ただけの他人ならそれでいい。

 呻きながら破片の合間に倒れこむ人や手を貸す人たちの顔を一つずつ確認していく。

「おい! 車の下に女の人がいるぞ!」

 そんなことは、ないはずだと手を貸す数人に交じって自分も車体を押しのける。

 輪郭のぼんやりした車体、つまり赤い車なのだろう。

 同じように、視界のアスファルトの大部分もおなじようにぼんやりとモザイクがかかっている。

 その真ん中で、青いワンピースの女性が倒れこんでいた。

 嘘だ、嘘だ、嘘だ。そんなわけない。

 スーツに血が付くのも構わず、膝をついて彼女を見る。顔の半分が、うまく見えない。

「満、満! 聞こえるか、満!」

 手を取るとまだかすかに温かった。