「すごく綺麗でしたね」

「そうですね、俺はあれがよかったな、雪とキツネのやつ。満さんなんのポストカード買ったんです?」

「富士山のやつです。ただその、赤富士なので……」

「ああ、うん。見えなかった」

 笑ってそういえば満は気まずげな表情を少しだけやわらげた。

 色人の気分を害したのではないかと思ったのかもしれない。

 色人の目では、この世には見えないものがあまりに多い。マックの看板、ラーメン屋の提灯、プラダのワンピースに、小学生の背中のそれも。神社の鳥居や、信号も、けがをした自分の左手だって満足に見えなかった。

 三原色の基本色である赤が見えないというのは実はけっこう致命的だ。それでも慣れですごしていればなんとなく、それっぽい答えは口にできるようになる。

 ただそんな風にごまかさなくても、満相手ならなにも問題はない。

 それだけで救われたような気がするくらいには。

「少し休憩しましょうか、近くのカフェにでも……」

「あ、あのっ! どうして、私のためにここまでしてくれるんですか」

 数歩後ろで立ち止まった彼女を振り向く。

 ショルダーバッグの肩紐をぎゅうっと握りしめて、先刻やわらいだはずの表情はひどく悲痛な色をしていた。