「す、すいません、すいません、前見てなくて」

 「いやこっちも考え事してて、大丈夫ですか」

 よかった、怒ってなさそうだ。ぱっと見だけど大きな怪我もしてなさそうだった。

 慌てて散らばった小物を拾い集める。

 こうしてる間にも時間は進むし、顔を見せたら愛理は「おっそーい」と笑うのだろう。

 「大丈夫です、すみません」

 もう一度だけ相手の顔を見て、その後ろの時計を見て、慌てて姿勢を整えた。

 待ち合わせは有楽町にある喫茶店だ。少し急がないと。

 青年もかるく会釈をしてくれたので安心して彼女はその場を後にした。