「尾端さーん、尾端涙さーん」

 彼はどういう症状を抱えているのだろう。

 すれ違いざまに相手もこちらを見て小さく頭を下げた。見かけほど悪い子ではなさそうだ。

 処方箋を貰い、薬を出してもらって車に戻る。早々に一錠飲み下すと幾分視界がマシになった。

 信号機が見えないのは実際危ない。青も黄色もついてなければ赤なのだとわかるので何とかなっているが薬が切れたときはあまり運転したくないのが本音だった。

 昨日拾った名刺入れを取り出す。見えもしなかったそれがいまはぼんやりと、すりガラスのような輪郭だけを浮かべていた。

 赤の名刺入れ。

 彼女は赤が好きなのだろうか。

 なんとなく力が入らずそのまま数分ぼんやりと過ごす。

 どうやって、彼女を探そうか。色人は週明けのことを考えながら目を閉じた。