「きみの症状はきちんと診断名がつくものです。それがいいってわけじゃもちろんないですけどね、安心していいですよ」

 「息子は病気なんですか」

 「おそらくですが摂色障害でしょうね」

 「摂食障害?」

 「食事じゃなくてね、拒食とかではなくて色を摂れないと書きます」

 メモパッドに走り書きされた摂色の二文字を見て色人は苦笑した。自分の名前と同じ字を使う診断名なんて皮肉だ。

 「色が見えないんじゃない、赤だけが見えないんでしょう。色人くんは赤が好きなんじゃないですか?」

 「俺、はい、赤いの好きです、昔から。戦隊ものが好きだったからきっとそのまま」

 筆箱も、タオルも、自転車も、思いつくものは無意識に全部赤だったな、陸上部に入ろうと思ったときもユニフォームが赤だったから格好いいと思ったんだと思い出した。

 中学に入ってから見えない頻度が高くなっていって、いつからか赤い色が視界に入ってくることがなくなっていた。

 「色覚障害や単なる視力問題とは違って、摂色障害は特徴があります。診断される人が一番好きな色が見えないっていう症状がでるんです」

 「待ってください、それなんなんですか、心理的なやつとかですか」

 「いいえ、物理的な病気です」

 「ここは、何科なんですか」

 半泣きになりながら母が言った。

 「体内にも心にも具体的な異常はない、そんな患者さんのための場所です。一般的にここは、奇病科と呼ばれています」

 奇病という単語で母が泣き崩れた。

 自分はただ茫然とその姿を見つめていた。