四つの時にお父さんが死んだ。
何故か私はお父さんが死んだ事に対してや、今の自分に''お父さん''が居ない事に対して何も思わなかった。

その六年後、お母さんに何故お父さんが死んだにも関わらず私は何も思わなかったのか聞いてみたら、「まだ頭の中で整理ができてないのね」と言った。電車で私立の小学校まで通う賢い当時の私でもそうなんだ、と思った。

十九歳の夏、通っている大学からバイトに行こうとした時、ラベンダーっぽい懐かしい匂いがふわっとして「ねえ。」という声とともに、私の肩が一回叩かれた。
見た事もない茶髪の男が後ろに立っていた。
その男は私に「髪型似てるね!」と言い、満面の笑みで笑った。
私は世間で言うベリーショートで茶髪だ。
よく見ると確かに髪型は似ているが、私と喋る口実なんだと思い無視をした。
男は「またね」と言ってどっかへ走って行った。
 同じ大学でも何処の誰か分からない人と、しかも男と同じ髪型だなんて私からしたら凄く嫌な気持ちになった。でも髪型は変える気はない。

今は夏休み前で、大学では夏休み明けに必ずサークルに入らないといけないというよく分からないルールがあったから、適当に「漫画研究」のサークルに入ると紙に書いた。「漫研」に入る人は、私みたいな人が多いらしい。

友達のいない私は、夏休みを家と図書館の行き来で過ごした。凄く暑い夏だった。

二学期が始まっても相変わらずの学校生活を送っている。というかそれ以上の生活を求めていなくて、むしろその方が心地がいい。比較的、人と話す時は明るく接してるけど、別に仲良くなりたいとか全く思わない訳で。
 
 授業を受ける部屋に見覚えのある後ろ姿があった。ラベンダーの人だ。私は出来るだけ遠い席に座り、なるべく目立たないようにした。
 授業が終わりすぐに部屋を出ようとしたら、前と同じ懐かしい匂いがして、もう嫌だと思いながらも振り返ると、やっぱりそうだった。
 夏休み前と全く変わらない感じで私を見ている。「久しぶり、髪の毛、全然伸びてないね」
 それが何?と言おうとしたけどいつもの明るい感じで、切ったから。と言いそのまま帰ろうとしたらその男が「友達にならない?」と言い出した。
 ただ、友達になるだけで会わなければ良いと思ったから、良いよと言って私は走って帰った。
 あの男は、私の事が好きなのだろうか。初めて顔を合わせたし、喋った事も全くなくてよく分からない。ただ一つ言える事は、あの男は私の恋愛対象じゃない。

 何日かして、サークルの集会があるという事である学校の一室に集められた。パッと見て15人くらいの人がいる。その中に私の天敵に近いあの男がいる。

 「同じサークル!びっくり!」多分私はからかわれているんだろう、気持ちの困っていないその言葉に対して、久しぶり、とだけ言って返した。
 このサークルは名前の通り、漫画を描くんだけど、もちろん私はそんな事が出来るわけもなく早く辞めるつもりだったから、四コマ漫画でいいですか、と聞いたら先輩は「良いよ」と優しくかえしてくれた。
 30分ほどして私は、もうここに一生来ないんだと思った。

 次の日の三限目、私は一番前の席に座りいかにも女受けしそうな先生の難しい話を聞いてうとうとしていた。横に座っていたシュウちゃんが「フクちゃん!先生が見てるよ!」と言い、とっさに先生の方を見たらもうこっちを見ていなかった。

シュウちゃんは大学の入学式で会って、初めて出来た唯一の友達。推理や探偵物の小説やドラマが大好きみたい。