「早く帰って来ないかなあ…。」
私どうしてこんなに利久さんと一緒に居ると癒されて、幸せな気持ちになるんだろう。
周りからお似合いだと言われると嬉しくって、本物の夫婦だとたまに錯覚してしまいたくなる。
「もしかして私、利久さんの事が好きなのかなあ? ねぇ武蔵、どう思う?」
窓際で寝そべっている武蔵に問いかけると、耳をぴくりと動かしてビー玉のような瞳を向けた。
「武蔵ッ」ともう一度大きな声で呼ぶと嬉しそうにこちらへ走り出してきて、私の膝の上にのぼる。
「武蔵はどう思う?」
「ハッハッ」
「きゃはは、くすぐったいよぉ~…そんな舐めないでよぉ」
犬にそんな問いかけを投げかけるなんてどうかしている。
利久さんは私の事なんて相手にしていないだろう。 ただ東京に連れ戻されたくないだけで、建前上私と結婚しているだけ。
私もそうだった。 秋月 雪乃を捨てたかった。違う名前になって別の人間としての生活を手に入れたかっただけ。初めはそうだったのに…。
一分でも一秒でも早く利久さんに会いたい。 今日が早く終わって明日になればいいのに。 この家で彼と過ごす事が私の中でこんなに大きくなっていくなんて。



