真っピンクの目立つ頭に素っ頓狂なファッション。 肩をだらしなく露出させてパンツが見えそうなミニスカート。 つばの広い真っ白の帽子を被り、顔の半分を覆うでっかいサングラスで身を隠す。

本当にお前は三十路を迎える女なのか。 離婚した頃と全く変わらない姿でのえるは現れた。 けれど過去の旅行の一件で反省はしたのか、足元は動きやすそうなスニーカーだった。


車の後部座席でのえるは武蔵とじゃれ合っていた。 武蔵がのえるを覚えているかなんて俺には分からない。 なんせ女性ならば誰にだって懐っこい犬だ。 犬は人に付くという生き物だが、10年前に捨てた飼い主を覚えているかは定かではない。

しかし自分を差し置いてのえるにまで尻尾を振り愛嬌を振りまく武蔵にさえ、苛々した。 もう少し雪乃の気持ちを考えろ。 俺が言えた話ではないが。

「今日はいい天気で良かったわねぇー!ねぇ、雪乃ちゃん!」

「ええ!本当に…!観光日和ですよ。 ラベンダーは少なくなっちゃってるかもしれないけれど、他のお花はまだまだありますから」