「武蔵は元気だよ」

「へーそっかー。私の事なんてすっかり忘れちゃってるんだろうなあ」

「犬は人に付く生き物だから、大切にしてくれた人は忘れない。」

俺の言葉にのえるは目を丸くした。 そしてケラケラと笑い冗談で言ったんだ。

「そっか。今度オフの日に北海道に行こうかなー。あ、誤解はなく。利久にじゃなくって武蔵に会いに」

「冗談止めろ。 本当に勘弁してくれ。
つか、じーさん、俺は帰るぞ。 こういう騒々しい場所は苦手だ。」

まさかこの時の言葉が本気だとは思っていなかった。

その時はのえると笑ってお別れをしたんだ。  数日後に彼女が嵐のようにやって来るとも知らずに。

改めて雪乃を大切にしようと誓った六月目。 平穏に過ごしていた俺達の元へ夏の終わりの嵐がやって来るのは、少し先の話だ。