どこが好きだったか、あの頃は色々と好きな所があった。

けれど一番好きだった所を今思い出した。 俺はのえるが仕事をして輝いている姿が一番好きだった。

夢を語る彼女が一番いきいきしていたから。 スポットライトの下にいる彼女が一番輝いて見えたから、そもそも結婚した事自体間違いだったのだ。

こうやって気持ちが切り替えられたのも雪乃のお陰なのだな、と彼女の屈託のない笑顔を思い出していた。

「ねぇ、利久」

「ん?」

「武蔵は元気?」

のえるはすっかりと武蔵の事なんて忘れていると思っていた。 武蔵の名を口にした時、苦い笑顔を作って。

目を閉じて武蔵の事を想い返していた。 武蔵はのえるが飼うといって連れて来た犬だった。 のえるが出て行った後も暫く彼女の帰りを待っていたようにも思える。

しかし動物は強い生き物だ。 寂しい気持ちを乗り越えて新しい自分の居場所を見つけていく。 今じゃあ、すっかり雪乃に懐いて彼女の側を離れようとはしない。

目を閉じ確認するように頷いた。