「しょうがない、走りますか」
えい!と気合いをいれて昇降口の屋根から飛び出そうとしたとき、
「ひゃ!」
グイッと腕をつかまれ屋根に引き戻されて、間抜けな声が出た。
何事かと振り返ると、また。
また、葉山くんがむすっと不機嫌そうな顔で立っていた。
(バカか、風邪引くだろ)
「これ使え」
葉山くんが肩にかけた鞄から紺色の折りたたみ傘を取り出した。
「いや、でも……」
葉山くんもこの傘しか持ってないんだろうし。
そういうわけにはいかない。
首をふって後ずさるわたしの手に、葉山くんは無理やり傘を握らせた。
「いいから使え」
「ま、ま、ま、ま、待って!」
今にも雨の中飛び出しそうな葉山くんの腕を、こんどはわたしがつかんだ。
後先なんて考えるひまなかった。
どうしよう、引き止めちゃった。
関わらないって決めたのに。
気持ちを閉じ込めるって決めたのに、油断したら気持ちが溢れそうなのに、引き止めてしまった。

