「すみません、貸出しです……ね」
「……」
(いいかげん避けるのやめろよ)
慌ててカウンターに向き直って顔をあげたわたしは、急いでうつむいた。
葉山くんが一冊の本を差し出して立っていたから。
一瞬目があってしまった。
あの、鋭い目。
動揺して手が震えそう。
「貸出しは今日から1週間です、どうぞ」
貸出し印鑑を押して、本を渡す。
わたしはペコリと頭を下げて、会話する隙を与えなかった。
植物図鑑、か……
葉山くんが借りたのは植物図鑑だった。
園芸委員としても、しっかり頑張ってるんだ。
葉山くんはやっぱり葉山くんだったな……
「……っ!」
少しだけ葉山くんの後ろ姿を見送ろうと顔をあげたわたしは、まだ目の前に葉山くんがいたことに初めて気がついた。
驚いて思わず立ち上がってしまった。
ガタタンと椅子が派手に音を立てて、わたしの焦りに余計な拍車をかける。
まだいるなんて、夢にも思わなかった。
しゃがんでカウンターに頬杖をつき、わたしの顔を覗き込むようにずっと見ていたらしい。
そして、今は立ち上がったわたしを下から見上げている。
(なんて声かけたらいいか分かんねぇ……)
むすっと不機嫌そうに難しい顔で黙ったままの葉山くん。
「……な、に……?」
雰囲気に圧倒されながらも、なんとか言葉を発した。
「いや、べつに」
葉山くんは立ち上がって苛立ちをぶつけるように、片手で髪をわしゃわしゃと乱暴にかきながら去っていった。
「……なによ……」
考えたくないのに、それからずっと葉山くんのことを考えてしまった。

