「ちょっと、もう一回だけ抱っこしていいですか?」
「ええ。気の済むまでどうぞ」
ウサギたちと何回もハグするわたしに、迎えにきた飼育員さんは笑いを含ませた。
「会いに行くからね。わたしのこと忘れないでね」
(もちろんよ、澪も葉山さんも大好きよ)
ユキちゃんがうるっと瞳を光らせた。
「葉山くんも、ほらあそこから見送ってる……」
葉山くんは廊下の窓からこちらをじっと見たまま、やってこなかった。
(またすぐ会えるのだろうから、さよならは言わないことにしよう。葉山さんにもよろしく)
ハカセは鼻の頭のメガネ模様をクイッとかいた。
「うん」
ハカセのこの仕草、また動物園に見に行こう。
(おいらたち、ずっと澪の味方だよ。澪の幸せを願ってるよ)
「……うん」
ぎゅーっとうさまるがわたしに抱きついた。
小さな前足なのに大きな腕に包まれたように心強くて、抱きしめられているように感じた。
「じゃあ、またね」
またすぐ会える。
分かっているけど寂しくて名残惜しい。
涙が出そう。
「とても可愛がっていたんだね。よく懐いてる」
優しい飼育員さんに車に乗せられ、ウサギたちは動物園へと旅立った。
空っぽになったウサギ小屋。
寂しさが増していく。
ウサギたちにはまた会えるのに……
そうか、これはさっきの別れの寂しさとは違う。
葉山くんとの接点がなくなった。
今感じているのは、その事実への寂しさだ。
廊下の窓に目をやると、葉山くんはもういなかった。