「みんな無事か?」
葉山くんが小屋の外から小声で尋ねてきた。
「うん、怖がってはいるけど大丈夫」
葉山くんはウサギたちをこれ以上怖がらせないように入ってこない。
「これは……! 何事だ?」
そのとき遠くから大きな声がして、ウサギたちは驚いてほら穴に逃げてしまった。
見ると、飼育委員会担当の理科の先生が走ってくるのが見えた。
目を丸くして、頭を抱えている。
「誰かのイタズラみたいです」
報告した葉山くんに対して、
「やったのは、お前じゃないのか? ここの掃除が面倒くさくなったんだろう。腹いせにこんなことして、許されると思うなよ」
(校長に何て言えばいいんだ、監督責任を問われる。なんてことしてくれたんだ)
先生は指を突きつけて叫んだ。
わたしは急いでウサギ小屋を出て、葉山くんの隣に立った。
「そういえば入学早々、暴力沙汰起こしてたじゃないか。そうだ、あれもこの場所だったよな? お前なら、やりかねない」
「葉山くんなわけ、ありません」
先生、何を馬鹿なこと言ってるの?
ウサギたちのこと可愛がって、誰よりもウサギたちのことを思ってる葉山くんが、こんなことするはずない。
「……」
(あれは当時の3年のやつらが)
黙って先生をにらんでいる葉山くんから聞こえた心の声に、わたしは目を見張って葉山くんの顔を覗き込んだ。
(3年のやつらがウサギたちのこと大声で罵って怖がらせてたからだよ)
どこまでもこの人は……
サッとわたしから目をそらしてじっと地面を見つめる葉山くんからは、何を言っても信じてもらえないだろうという諦めが伝わってきた。

