広々した館内に、大きな棚がいくつも並ぶ。
静かな空間。
本をめくる音だけが存在していいと許されているみたい。
妙に空気が張りつめていて、少し緊張する。
ずらっと並ぶ本の背表紙を一つ一つ眺めながらゆっくり歩く。
検索の機械は使わない。
こうやって歩くの宝さがしみたいで、結構好きなんだ。
昇平くんもわたしの少し後ろをゆっくり歩いてくる。
わたしが読書が好きなこと、覚えていてくれたのかな。
「澪ちゃんみて」
昇平くんが一冊の本を指差した。
『しょうへいくんのだいぼうけん』
「あ……」
水色の背表紙に見覚えのあるポップな字。
そしてタンクトップに麦わら帽子、虫取りあみを持った少年が満面の笑みの表紙。
懐かしい。
小学校の図書室にもあった、この本。
昇平くんはそこまで読書好きじゃないくせに、小学生のときもよく図書室に付き合ってくれてた。
そして、一緒によく読んでた本。
懐かしい。
ふいに昇平くんが表紙の男の子の真似をして、口の端を大きくにーっと上げて見せた。
「うふふ。似てる」
「やっと笑った」
(澪ちゃんには余計なことは考えず笑っててほしいな)
ほっと息を吐いて目を細める昇平くんから愛しさが伝わる。
すーっと心が安らいでいく。
このまま昇平くんと一緒にいれば、過去のこと忘れられるかもしれない……
「ねぇ、澪ちゃんのおすすめの本教えて。読みたい」
「うーんと、じゃあ……」
誰かと穏やかな時間を過ごしたの久しぶりだった。
時間があっという間に過ぎて、気づいたら18時の閉館時間だった。
こんなに長くいたなんて。
小学生に戻った気分で楽しくて。
「また来ようね」
笑顔で言う昇平くんに、わたしも笑顔でうなずいていた。