「なんで……」
「なんだか澪ちゃんが泣いてる気がして」
昇平くんがわたしの傍らにしゃがんだ。
「あのうわさ、本当なの?」
「……うん」
「そっか」
(誰かに告白されることに達成感を得ちゃった? でもその過去に苦しんでる。澪ちゃん、真面目だからな)
昇平くんは、あの頃と同じ。
わたしのことを分かってくれてることに、ほっとする自分がいた。
「葉山くんのこと好きなの?」
「え! ……そんなこと、ない」
急に聞かれて、わたしの頬が熱くなる。
「見てたら分かる。小3のときは? 俺のことどう思ってた?」
「……好き、だった」
あのとき伝えられなかった気持ち。
伝えたかったと後悔し続けてきたから、もう嘘はつけなかった。
「そっか」
(俺は今でも好きだよ)
目を細めてわたしを見る昇平くんから唐突に聞こえた心の声。
昇平くんはずっと、わたしのことを想ってくれてた。
こんなわたしなのに……。
「俺、好きだなんて言わないから。好きになってくれとも言わないから。ただ、となりにいさせてくれないかな」
「……」
わたしの頬を流れる涙を昇平くんが指で拭ってくれた。
昇平くんの存在が、わたしの心を安心させてくれる。
わたしは、ゆっくり頷いた。
誰かに助けてほしかった。
それが、また昇平くんを傷つけて、自分を苦しめるとしても。
わたしが自分の過去を許せないでいること。
葉山くんのこと好きな自分が許せないこと。
昇平くんは全部分かってるから、好きだって言葉にしないでいてくれてる。
わたしの罪悪感を薄めようとしてくれてる。
優しい昇平くんにすがってしまった。
(大好きだよ、澪ちゃん)
頭を撫でてくれた昇平くんの心の声に、ジワッと胸が痛んだ。
教室に戻ると葉山くんは机に頬杖をついて窓の外を見ていて。
その横顔は無表情でいつもと変わらないようなのに、泣いているみたいに瞳に光が揺れたように感じた。

