「なんで、俺のこと避けてんだよ」
葉山くんがグッと顔近づけて、わたしの目をじっと見た。
葉山くんの声はいつもより低くて、怒ってるみたいなのに少し弱々しい。
「や……」
熱っぽい視線が色っぽくて慌てて横を向くけど、その視線がなおもわたしに向けられているのを感じる。
わたしは両手で葉山くんの胸を押し返すけど、力強い腕からは逃げられない。
ドキドキしたらだめだって思うのに、どうしようもなく胸が高鳴る。
つらい。
これ以上近いままじゃ、つらい。
「葉山くんがさっき言ってたとおりだよ。ここの掃除面倒になったの」
わたしは早口に口走る。
いっそ、徹底的に嫌われてしまった方がいい。
もう、関わらないと決めたんだから。
「嘘下手すぎ」
わたしは涙をこらえて目をぎゅっと閉じてから、意を決して目を開いた。
葉山くんをまっすぐに見て、にらむ。
「嘘じゃないよ。それに葉山くんって無口だし一緒にいてつらいの」
「……」
(だったら……始めから俺に近づくなよ)
葉山くんが力なく手を壁から下ろして、わたしから離れた。
「ごめん、なさい」
慌てて言って逃げるのが精一杯だった。
わたしは人を傷つけて、逃げてばっかだ。

