「ウサギの世話、面倒になったかと思ったけど」

ハッとして振り返りそうになったけど、なんとか平静を装った。

葉山くんの声。

真意が読み取れない、冷たい声。

うさまるはピクンと驚いて、ほら穴に逃げてしまった。

「面倒になんてなってない」

声を出したら一緒に気持ちもあふれて、涙が出そう。

面倒になんてなるはずない。うさまるたちのこと大好きだし、葉山くんと一緒にウサギ小屋の掃除するの楽しかった。

でも姫島さんに脅されたのはきっかけにすぎない。

きっといずれ、わたしは自分から葉山くんから去ることを選んだはず。

「ああ、デートで忙しいか」

「デートなんか、してない……」

「じゃあなんで」

葉山くんの絞り出すように苦しそうな声。

葉山くんがグッとわたしの手を引いた。

そのまま、ウサギ小屋の裏に引かれていく。

「な、なに……!?」

この状況に頭がついていかない。

掃除道具が置かれているだけの、誰にも見えない空間。

わたしは壁に追い込まれて、背中を壁に押しつけられた。

そして、わたしの顔のすぐ横の壁には葉山くんが片手をついている。

少し上から見下ろす葉山くんの真剣な眼差しと、息づかいが聞こえそうなほどの顔の近さに、わたしの胸がドキンと大きく鳴った。

(なんで……どうして)

葉山くんの苦しく絞り出すような心の声が聞こえた。

「やめ、て……」

逃げようとしたけど、もう片方の手もわたしの顔の横につかれて、葉山くんと壁の間にできたわずかな空間に閉じ込められてしまった。