「俺はかわいいと思うけど」

「え……葉山くん……!」

姫島さんがギョッとして後ずさった。

わたしもギョッとして顔をあげた。

葉山くんは寝てると思っていたから。

それに、さっきの言葉。

俺はかわいいと思うけど……

かわいいと思うけど……

かわいいと思うけど……

わたしの脳内で何度も繰り返される。

ただ、かばってくれただけ。

わたしなんかが喜んじゃだめ。

「俺は……」

(俺はこいつの笑顔好きだよ)

葉山くんはためらうように黙ってしまったのに、あたたかい心の声はわたしに届いた。

どうして葉山くんはそんなに優しいの?

優しくされればされるほど……つらいよ。

「葉山くん、知らないんでしょ。あのうわさ。知ったらかばう気もなくなるわよ。この女はね……!」

わめく姫島さんの言葉を葉山くんが目で制すると、姫島さんは言葉につまって悔しそうに教室を出ていった。

「うわさなんて、どうでもいいから。少し話せるか?」

冷静にわたしを見下ろす葉山くんから急いで目をそらした。

葉山くん、もうわたしに優しくしないで。

わたしは懸命に首を振った。

チッと葉山くんは小さく舌打ちをして、乱暴に足音を鳴らしながら自分の席に戻っていった。

かばってもらっておいて、お礼の言葉もないわたしのこと葉山くんはきっと呆れたに違いない。