とても部屋に戻れる気分じゃなくて、こっそり自分の会計だけ済ませて店を出た。
「澪ちゃん!」
昇平くんに気づかれたみたい。
後ろから呼ぶ声が聞こえるけど、わたしは立ち止まらずに歩いた。
「ごめん、澪ちゃん。誘ったの迷惑だった?」
昇平くんが不安そうな顔で、歩き続けるわたしの顔を覗き込んだ。
(話したいことがたくさんある。澪ちゃん、俺の気持ちは今でも……)
わたしは慌てて顔を背けて距離を取った。
「や! いや、迷惑とかじゃなくて。少し慣れなくて疲れちゃって。勝手に帰ってごめんなさい」
俺の気持ちは今でもって……なに?
頭の中でグルグル駆け巡る言葉。
「ねぇ、少し話さない?」
「わたし、昔とは違うから。昇平くんの思ってるようないいコじゃないよ。関わらない方がいいよ」
わたしといると昇平くんにまで変なうわさが流れかねない。
それに、わたしの過去のこと昇平くんが知ったら幻滅するはず。
そんなの、耐えられないよ。

