「あの……いろいろありがとう。昼間のこと。わたしのことかばってくれて」
そして過去のこと深く聞かないでいてくれることも。
葉山くんとバス停でバスを待ちながら、思いきって切り出すと、
「本当のこと言っただけ」
葉山くんはボソッと言って頭をかいた。
「……」
「……」
葉山くん照れてる……?
まさかね、と思っても自分の頬が赤くなるのを感じる。
薄暗い夕方の公園。
わたしたち以外、人の姿はない。
ときおり前の道路を通る車の音だけが響く空間。
次第にわたしの胸がドキドキ高鳴っていく。
……ドキドキなんてしちゃだめ。
わたしは気を取り直して話題を変えた。
「……疲れたね」
「ああ。さすがにな」
張りつめていた糸がプツリと切れたように、どっと疲れを実感する。
今から学校に戻ってウサギ小屋の掃除。
今日ばかりは少しだけ大変だけど、うさまるたちきっとお腹をすかせてるから早く行ってあげなきゃ。
「学校までのバス、あと10分後だ」
時刻表を見ながらわたしが言うと、葉山くんが一瞬キョトンとした顔をした。
「ああ、それなら今日の朝、掃除してたっぷりエサを置いてきたよ。今日の夕方に学校戻るのは大変かなと思って」
え……葉山くん、一人で朝に掃除をしてから来てくれてたんだ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
葉山くんがまた頭をかいた。
見た目で怖がられてるけど、葉山くんのことを知れば知るほど、本当はすごく優しい人なんだと気づく。
葉山くんのことをもっと知りたいと思うのに、もっと知ってしまったら葉山くんのことを好きにならずにいる自信がない。
「わたし、あのバスだからっ」
ちょうどわたしの乗るバスがやってきて、駆け込むように乗ったわたしを、
(変なやつ……)
葉山くんは首をかしげて見送っていた。

