「ああ、今日だったか」

奥から、あからさまに面倒くさそうに頭をかきながら一人の男の人が現れた。

わたしたちが名前を名乗っても、あまり興味はなさそうで、胸のネームには『田中』と書かれている。

「君たちにやってもらうことは一つ。菜の花畑の草むしりだけだ。花畑の周りをぐるっと一周な」

田中さんは軍手とゴミ袋を渡して、またすぐに奥へと消えてしまった。

え、草むしりだけ……?

「いくぞ」

葉山くんは早々に事務所を出ていったので、呆気にとられたというか、拍子抜けしていたわたしも急いで葉山くんの後を追った。

「うわぁ、きれい……だけど広い……」

満開の菜の花が、ため息がもれるほどきれいだった。

ベビーカーに赤ちゃんを乗せたお母さんや、カメラを持ったおじいさんが散歩している。

休日はきっと、もっとたくさんの人が見に来るんだろうな。

一度来たことはあったけど何年も前のことだったから、ここまで広い記憶がなかった。

学校の校庭くらいはありそうな気がする。

一日で終わらせられるかな。

弱気になりかけたけど、わたしは手帳を開いて大きく頷いた。

『楽しく素敵な思い出が溢れる公園に』

ホームページに載っていた、この公園の基本理念。

調べたとき、すごく良い理念だなと心に響いた。

たかが草むしり。

されど草むしり。

菜の花畑がもっときれいになって誰かの素敵な思い出がもっと素敵になるはず。

弱音を吐いてる場合じゃない。

わたしはこぶしを振り上げて、

「よーし、頑張ろう!」

大きな声で気合いをいれたら、すでにしゃがんで草むしりを始めていた葉山くんの体がビクッと跳ねた。

「驚かせちゃってごめん。わたしは向こうの端からやっていくね」

「ああ」

(くくく……気合い入りすぎ)

葉山くんに心の中で笑われて、わたしはそそくさと花畑の反対側に回った。