「光くんは今どき珍しい硬派な日本男児だねぇ」

「光くんと澪ちゃんは毎日ウサギ小屋の掃除をしているんだろう? いい子だねぇ。大変じゃないかい?」

渡辺さんたちが褒めながらも心配そうに聞いた。

「自分がやりたいと思っただけなので。それを、あの、澪……さんが手伝ってくれて」

葉山くんが少しためらいながら、わたしの名前を口にした。

澪って、初めて名前……

ぽーっと頬が熱くなる。

にやけそうな顔を、お茶を飲んで誤魔化した。

頭がふわふわして、夢の中にいるみたい。

「あらあら、初々しいこと。2人はお付き合いしているの?」

「っ!?」

おばあちゃんがサラッととんでもないことを言ったから、お茶を吹き出しそうになっちゃった。

「……いえ。ただの友達ですよ」

冷静に否定した葉山くんの言葉に、ケホケホ咳ばらいをしていたわたしも、

「な、なに言い出すのよ、おばあちゃん。そんなわけないでしょ」

そう……葉山くんとは飼育委員が一緒なだけ。

本当にそれだけ。

慌てて否定したけど、わたしと違って少しも動揺していない葉山くんに、胸がチクッと痛んだ。

「そうなの? お似合いだから、てっきり恋人かと思ったわねぇ」

「でも、かわいらしいお2人だわ」

あらあらぁ、とおばあちゃんたちは意味深にうなずいていたけど、

「わたしらにも、こんな若い時代がありましたねぇ。実はわたしの初恋はねぇ……」

と松田さんが話し始め、おばあちゃんたちは少女みたいな顔で恋バナに花を咲かせ始めた。

なんで、わたしたちの話から初恋の話になるのよっ。

わたしたちは、そんなんじゃないのに。

居心地が悪くて、わたしは愛想笑いを浮かべるしかなかった。

初恋話とたまに聞こえる葉山くんの相づちは何も頭に入ってこなかった。