心の声は聞きたくない!

「あれ、お前なんで掃除してんの?」

背後で聞こえた声に振り向くと、両手にレジ袋を下げた葉山くんが立っていた。

「なんでって……あ、なんでだろ」

自分の担当週でもないし、葉山くんみたいに掃除することを買って出たわけじゃないのに。

「わたしこの子たちと友達になったから。葉山くんが迷惑じゃなかったらわたしも毎日掃除していい?」

じっとわたしの言葉を聞いていた葉山くんが、

「ぷはは、おもしれぇやつ。迷惑じゃねぇよ、むしろ助かる。ありがとう」

葉山くんは、なおもお腹をかかえて笑っている。

そんなに笑うところ?

でも、いつもはオオカミみたいな鋭い目をくしゃっと細めた笑顔がかわいくて、見てるとまた胸がくすぐったくなった。

「俺もうさまると友達になりてぇなー。あの白い子と白黒模様の子の名前は?」

「ユキちゃんとハカセ」

「ふーん」

(こいつらしいネーミングセンス)

葉山くんが心の中で笑ってるのが分かったけど、ぜんぜんバカにした笑いじゃなくて、微笑んでくれてるような気がした。

葉山くんはレジ袋からキャベツ、にんじん、レタス、ほうれんそう、小松菜、ブロッコリーを取り出してトレーに並べた。

「うわぁ、たくさん買ってきたね」

急いで教室を出ていったと思ったら、野菜を買いに行ってたんだ。

「何が好きか分かんなかったから」

わたしの足に隠れるように葉山くんをうかがっていたうさまるが、食べたそうに野菜を見つめている。

「ほら、うさまる。もらって食べたら? ユキちゃん、ハカセも」

小屋の隅で丸くなってる2匹にも声をかけるけど、近寄ってこないし、

(澪、食べたいけどオオカミがこわいよ)

うさまるがぷるるっと身震いをして助けを求めるようにわたしを見上げた。

「オオカミじゃないよ、わたしと同じ人間だよ。ごはん買ってきてくれたの。優しいでしょ?」

「おい……」

ウサギたちを安心させようと言ったわたしに、葉山くんは絶望的な目を向けた。

「オオカミって褒め言葉……?」

「……ウサギにとっては違ったね、なんか……ごめん」

追い討ちをかけるようにうさまるがピューッと転がるようにユキちゃんたちのもとへ逃げていった。