「うさまる……とかどうですか? あのこ、毛がフサフサでまるまるしてるから」

わたしは端で日向ぼっこ中の茶色いウサギを指差した。

うとうと目を閉じている姿がかわいい。

「……ださ」

(やっぱ自分で考えるか)

葉山くんは呆れたように首をふった。

「ひどい! ぜったい、うさまる!」

「だめだ、やっぱり俺が考える」

しきりに首をふる葉山くんに、わたしはムキになって、

「うさまるー、うさまるー! ほら、いま目開けたよ」

何度もうさまるに呼びかけたら、

(騒がしいなぁー……なんだよぉ)

「ん……?」

うさまるから、まるで鉄琴のように高くてかわいい声が聞こえて、わたしは固まった。

「どうしたんだよ」

横で不思議そうな葉山くんの言葉に答える余裕はない。

「うさ、まる……?」

もう一度、名前を呼んでみる。

わたしまさか、うさまるの声が聞こえてる?

(それもしかして、おいらに名前つけてくれたの?)

うさまるがピンと耳をたてて、わたしの方を見た。

「そ、そう。あなたの名前……」

(ま、ま、ま、ま)

うさまるがわたしの目の前まで転がるように走ってきて、

(まじでーーーっ! ありがと、ありがと、ありがと)

細かい網目になった柵に、むぎゅーっと顔を押しつけて少しでもわたしの近くに寄ろうとしている。

「どういたしまして……」

わたし、ウサギの心の声も聞けるんだ。

戸惑いながらも柵のすき間から指をいれて、うさまるを撫でるとうさまるは気持ちよさそうに目を細めた。

わたしとうさまるのやり取りに気がついたのか、ほら穴から別のウサギがひょいっと顔を出した。

真っ白で目がクリッとかわいいウサギ。

(あのぉ、あたしも名前つけてほしいです)

控えめで大人しそうなウサギだ。

(ぼくもお願いしようかな)

また別のウサギが顔を出した。

白黒まだら模様で鼻の上にメガネのような模様が特徴的。

ハキハキとした物言いから、まじめでしっかりものなんだろうなと分かる。

「うん、分かった。それじゃあ……」

「お前……」

頭上で葉山くんの真剣な声が聞こえた。

しまった、葉山くんのいる前で普通にウサギと話しちゃったし、なによりウサギとの会話に戸惑いすぎて葉山くんの存在を無視しちゃってた。

怒ってる? それとも引いてる?