「うるせー。自分の担当くらいちゃんと仕事しろ。いやいや掃除してもらってもウサギは嬉しくねぇんだよ」

となりで聞こえた声にびっくりして、わたしは葉山くんを見た。

(どいつもこいつも自分のことばっかで……ほんとうぜー)

葉山くんは腕を組んで誰に言うでもなく、ただまっすぐ視線を向けたまま睨みをきかせていた。

一瞬静まり返り、みんなの視線が葉山くんに集まった。

(え……)

姫島さんは、目を丸くして絶句している。

「今後俺が毎日掃除するから。それで文句ねぇだろ」

葉山くんはそれだけ言って理科室を出ていってしまった。

葉山くんが毎日?

意外すぎる発言に驚く。

てっきり葉山くんのイメージからして面倒くさがると思ってた。

姫島さんが同意を求めた気持ちも分かる。

姫島さんはガタンと椅子をならして葉山くんの後を追って出ていった。

「自分からやるって言ったんだから、後で恨まれたりとかないよね?」

「それはないでしょ!」

「先生! 葉山くんがやってくれるって言うならそれでいいです」

残ったみんなが話はついたとばかりに口々に言った。

待ってよ、みんなそれはひどいよ。

そう思っても、わたしには口に出す勇気はない。

「まぁ葉山がやってくれるとのことだから。話は以上、解散」

(これで校長にうるさく言われることもなくなるし俺も掃除しなくてすむ)

先生は結局自分のことだけ考えてる。

(やった、ラッキー)

(よかったー、もうやらなくていいんだ)

葉山くんのことを心配する人なんて一人もいなかった。