「あのー」

葉山くんに近づいて声をかけたけど、わたしの控えめな声が葉山くんに届くはずもなく、かすかな寝息が聞こえてくる。

「あの!」

「……?」

顔をあげて眠そうに目をこする葉山くんは、キョロキョロ周りを見渡している。

「なに」

だいぶ周りを見渡してから、やっと目の前のわたしに気がついて不機嫌なひと言を放つ葉山くんと目があった瞬間、わたしは思わず一歩下がった。

葉山くんは大人っぽくて、クラスの中で一際目を引く存在だった。

爽やかな黒髪の短髪に筋の通った高い鼻。

切れ長の目は鋭くて相手を圧倒させるオーラを放っている。

毎朝、彼が登校するとクラスのみんなは目を奪われるように一斉に彼を見て教室は一瞬シンと静まるほどだ。

女子はかっこいいとため息をつき、男子は近寄りがたいと怖がる素振りを見せる。

みんなの心の声情報によると、なんでも1年のとき入学早々、3年生の先輩になぐりかかって怪我をさせたとか。

それで学年中いや、学校中に名が知れたみたい。

キケンな香り漂う彼にあこがれて、仲良くなるきっかけを探している女子もいるみたいだし、男子も話しかけてみようかとチラチラ視線を送る人もいる。

でもそうこうしているうちに、誰もまともに話しかけられず月日は経って今にいたるらしい。

当の葉山くん本人は、みんなの注目なんて気にもとめていない様子で心の声はいつも、ねみぃーばかりだし、今みたいに隙あらば寝てばかりだから話しかけるタイミングは難しい。

にしても、3年になるまでまともに話しかけられないなんてことある?って葉山くんと目が合うまでは半信半疑だったわたしだけど。

今みんなの気持ちが分かった。