「あ、忘れ物!!」
二人で玄関まである廊下を進んでいたときに、急にちえりが大きな声をあげた。
バタバタと足音を立ててリビングに戻る姿は騒がしさを表していたけれど、いつものことだ。
今日の朝だってバタバタ洗面所まで走ってきたし。
まぁ、そういうところも、好きなんだけど。
今日もいつも通り、目が覚めて。いつも通り、ちえりをからかって。いつも通り、大学に行く用意をした。
今日は俺もちえりも二限からだから、そんなに急がなくていいし。
ちらりと視界に映る前髪を少し撫でる。
基本的に面倒臭いからバイト以外で髪の毛をセットすることは無かったんだけれど、ちえりに俺のバイト姿を見られて、純粋で綺麗なその瞳に「ゆんちゃん、かっこいい…」って言われたら、そんなん調子に乗ってしまうのが普通で。