まだ僕がベッド中でうだうだしてる頃…
玄関のチャイムが鳴った。



昨夜は、いろんな想いがごちゃごちゃになって、結局、朝まで眠ることが出来なかった。
あの年賀状を出したことで清算出来たと思ってた昔の恋心が、皮肉なことに相川さんとの再会でまた急に燃え上って…
でも、相川さんは僕のことなんて、ただのクラスメイトとしか思っていない。
態度にはあらわさないけど、あんな恥ずかしいことを告白したんだから、内心ではどん引きしてるかもしれない。
やっぱりあんな年賀状なんて出さなきゃ良かったと、僕は深く後悔した。

こんな時ほど、自分が下戸であることが悔やまれることはない。
酒が飲めたら、一時的にでもいやなことを忘れることが出来たかもしれないのに…



すぐには起きる気になれず、ベッドの中でそんな考え事をしていたら、再び、チャイムの音が鳴った。



(誰なんだよ、まったく……)



「はぁ~い。」

インターフォンに映るのは、どこかおどおどした相川さんの顔。



「あ、相川さん!?」

「あ、ごめんね…突然。」



僕は慌てて、玄関に向かった。



「ど、どうしたの?」

「え…うん。
……えっと……これ。」

相川さんは、年賀状を差し出した。
宛名の住所は町名までしか書いてない。



「ここの番地がわからなかったから、自分で配達しに来た。」

「え……」



どういうことだ??
昨日、あんなことを告白して、それで相川さんがこうしてお返しの年賀状を持って来てくれたってことは…



僕の鼓動は速さを増し、気持ちは焦って妙な汗が流れ出す。



「え…えっと…そ、その…あ、あ、ありがとう。」

「うん。」

相川さんの明るい笑顔からは、その真意は汲み取れない。
そう、相川さんは昔から優しい人だから…
特に大きな意味もなく、お返しの年賀状をくれただけのことなのかもしれない。うん、きっとそうだ。



「あ……」

裏には、新年の挨拶と共に、実家とは違う住所が書かれていた。



「あ、あれ?この住所……」

「あ、あぁ…いらないかもしれないけど、私のアパートの住所…」

「ぼ、僕が引っ越すのも同じ市だよ!
緑ヶ丘って知ってる?」

「えっ!緑ヶ丘は、うちからバスで15分くらいだよ。」

「う、うそーーー!」

信じられない。
こんな偶然があるなんて…
相川さんと僕は、お互い、びっくりした顔を見合わせた。



「じゃ…じゃあ、また向こうで会えるね。
あ、良かったらLINEも…」

住所の下には、相川さんのLINEのIDらしきものも書いてあった。



「あ、あの…相川さん…
良かったら、携帯ショップについてきてくれないかな。
実は、僕、まだガラケーなんだ。」

「あ…無理しないで。
メールでも良いし…」

「ううん、ちょうどスマホに変えたいって思ってたところだったから。
でも、僕、機械には弱くてどんなのが良いかもわからないから、良かったら選んで、LINEの使い方も教えてほしいんだ。」

「うん、良いよ!」

本当はスマホに替えるつもりなんて全然なかったけど、僕は咄嗟にそんな嘘を吐いていた。