「あれ…実は12年前の年賀状なんだ。」

「う、うん、年賀はがきに平成21年って書いてあったよね。」

「あ、気付いてたんだ……」

そのくらい、誰だって気付くよ。
他のはがきとは、明らかに色が違ってるんだから。



「でも、なんでそんな古い年賀状をくれたの?」

「う、うん…それはね……」

松本君は、流れ出る汗をハンカチでぬぐう。
確かに鉄板の熱気で暑いけど、そのせいだけじゃなさそうだ。



「あ!大変!」


お好み焼きから焦げ臭いにおいがしてた。
私は、焦ってお好み焼きをひっくり返す。



「うわぁ!」

……失敗だ。
お好み焼きがねじれて落ちて飛び散った。
でも、裏が真っ黒になりかけるくらい焼けてたから、なんとか体裁を整えることは出来た。
松本君は、私とは違ってやけに上手に裏返した。



「ちょっと火を弱めるね。」

お好み焼きをいじってるうちに、私は大切なことを思い出した。



「えっと…あ、そうそう。
それで、さっきの話だけど…なんで、平成21年の年賀状をくれたの?」

そう言った時、ふと気付いた。
平成21年ってことは、今から12年前で……
それは、私達が高3の時だってことを。



「相川さん…僕、もうじき引っ越すんだ。」

「え…?そうなの?」

引っ越しのことがあの年賀状となにか関係あるんだろうか?
私は、彼の次の話を待った。



「うん、それで、年末は引っ越しの準備で、皆、大変でね。」

「えっと…松本君は、ずっとこっちにいたの?」

「うん、そうだよ。
中2の時にこっちに引っ越して来てから、今までずっとこっちに住んでたんだ。」

「実家住まいってこと?」

どこか照れくさそうな顔で、松本君は頷いた。
ってことは、多分、松本君はまだ独身なんだ。
なぜだかそのことにほっとした。



「それで……いろいろ片付けてる時に、あれが出て来たんだ。」

「そ、そうなんだ…」

あれっていうのは、もちろんあの年賀状のことよね。
あの年賀状がどういうものなのか具体的に聞きたかったんだけど、焦らせるのも悪いような気がして、私は松本君が話し始めるまで、お好み焼きにソースを塗りながらじっと待った。