「それで・・・な・・・」

 智明はまた言葉を詰まらせる。智明の中で昨日のことはちゃんと話さないと気が済まないのだろう。本当に真面目だ。

 智明は責任を取って付き合おうとか言うのかな? 
それともただ謝る?


 そりゃ付き合えたら嬉しいけど、そういうんじゃないよね、私と智明の関係は。きっと気持ちだけではどうにもならないことが、二人の間にはたくさんあるんだ。


「話はおしまい! ちょっと待ってて、すぐにご飯作るから」

 何か言いたげな智明に背中を向け、私はキッチンへと向かう。


 正直、智明の話を聞くのが怖かった。付き合えないと言われるのが怖かったんだ。


 私は冷蔵庫を開け、卵を二つ取り出した。


 もし、もしも智明と付き合うことになったら、あゆむさんが経験した、もっと辛い現実を目の当たりにするのだろう。

 あゆむさんは付き合っている時にそんな光景をずっと見て来た。そしてそれに耐えきれずに別れた。きっと私も同じことを感じるのかもしれない。

 けどその前に、智明は私と付き合うことを望まない、それはあゆむさんのことがあったからだ。きっと自分の環境では相手を幸せにできない、そう思っているから、私とは付き合わないだろう。


 私は智明のことを愛している、『だからどんなことにも耐えられる』とは言えない。実際にあゆむさんのように経験はしていないから。けど覚悟は決めたつもりだ、智明と体を重ね合って、その決意は更に固まった。それでも智明は私を受け入れないだろう、だから私はこの場所で、この距離で智明を支えていく、きっと今はこれが一番いいんだ。


 だから智明、今は何も言わないで、それを言ってしまえば二人の関係が終わってしまう。

 私は今が満足、智明のそばにいられて、体を重ね合うだけの関係だとしても、私は満足なんだよ。だって私は智明が大好きだから。


 それに確かに智明のやさしさを感じたよ、ただ欲求のまま女を抱く男とは違う。取り乱して我を忘れた智明だったけど、相手への配慮があった。私にやさしく触れ、体を気遣う姿勢があった。私は智明に守られているような気がした、大事にされているような気がした、とても心地よかったんだよ。だから私は、今の関係のままでもいい。そんな関係すら無くなってしまうことの方が私は嫌だ。

 だからお願い、何も言わないで、黙って智明のそばにいさせて、お願い。

 私はそれからも、智明が何か聞きたくないようなことを言おうとすると話をはぐらかせた。智明は少し困っていた。

 ごめんね、智明。


 ♪♪♪♪♪

 すると智明のスマホが鳴った。