そして陽が明ける頃、智明の熱は下がっていた。なんて回復力だ。

「気分はどう?」

「うん、だいぶよくなった。杏子のおかげ」

「私は何もしてないよ。それより何か食べる? たいしたものは作れないけど」

「いい、ここにいてくれ」

 智明が私を求めた、こんなこと初めてだ。


「なぁ~に? 甘えたさんになったの?」

 私はそう言って嬉しさを隠すように智明をからかう。すると智明は、「そうかも・・・」と言って、私の腕を少し引いた。


「智明?」

「杏子・・・ もう疲れた・・・」

 それは初めて、智明が私に弱さを見せた瞬間だった。


 私は胸に熱いものが込み上げて来て、涙が溢れそうになった。そして気が付くと胸で智明の顔を抱きしめていた。


 愛おしい・・・ 
 
 初めて弱さを見せてくれた、私を頼ってくれた、大好きな人・・・


 すると智明が突然、私をベッドに連れ込むと馬乗りになった。


「智明?」

「杏子、俺・・・」

 そうか、どうしようもない憤りが、行き場を失っているんだね?


「いいよ、智明。来て」

 私はそんな智明に笑い掛け、頬に手を伸ばす。


 智明はまるで獣になったかのように私の唇を奪い、体を貪る。


 辛かったね? 苦しかったね? 

 いいよ、私にぶつけて。どうしようもない憤りを全部私にぶつけて。
そして私も一緒に背負わせて? その苦しみを。


 こんな状況なのに私は不謹慎にも、とても幸せだと感じたんだ。

 智明が私を求めてくれている。そして私は大好きな智明に抱かれていることに。


 智明、大好きだよ・・・


 どうなってもいい。これは須山さんの時とは全然違う、愛があってのことだ。この人のためなら、少しでも心が楽になるなら、私はこの身を捧げる。智明への愛。


 私たちは満たされるまで、強く抱きしめ合った。