「ちょっと・・・ ええっ?」

「ごめんなさい、近所の人に見られたくなくて」

 突然、部屋に連れ込まれて驚いただろう。しかし私の気持ちを察してくれたのか、浅尾くんは動かず、家を出ようとはしなかった。

 向かい合う形で家に中に入った私たち、浅尾くんはガッチリと私の両腕を掴んでいる。


「大丈夫ですか?」

 そして頭の上からやさしく、そう声を掛けて来た。

「うん・・・ ごめんね・・・」

 でもやっぱり涙は止まらない。


 そうだ、きっと涙の理由は、背徳感と虚しさ・・・


 浅尾くんとこんな会話をして、さっきまでの自分が恥ずかしくなったんだ。後悔してるんだ。
しかし、見知らぬ男性とセックスしたことの後悔は消えない。それで涙が出て来たのかもしれない。


「私ね・・・ 今日、好きでもない人と寝たんだ・・・」

「えっ?」

「最近スナックで働き出したんだけど、そこで知り合った男性と寝たの。お金貰って・・・ 軽蔑したでしょ?」

「・・・・・」

 浅尾くんは何も答えない、それが答えだ。
私のしたことに引いているんだ。


「だよね・・・ 最低だよね? もう、どうでもいいんだ・・・ 私なんかどうなっても・・・」

 その時、何も言わない浅尾くんの手にぐっと力が入って行くのを感じた。